老化と発がん | 生活習慣病の予防

老化と発がん

東大循環器内科の小室先生の御講演を聞く機会があった。


先生が2007年のNatureに発表された、心肥大で虚血が起こる分子メカニズム(恒常的な圧負荷がかかると癌抑制遺伝子p53が誘導され、p53がHIF1の発現を抑制し、血管新生が阻害されて虚血になる)の解明研究についてさらに理解を深めることができた。


圧負荷や心筋梗塞などでDNA損傷が起きると、細胞は癌化する危険性が発生する。したがってDNA損傷により癌抑制遺伝子が発現する。癌抑制遺伝子は細胞の増殖を抑える作用を有するが、その中にHIF1発現抑制により血管新生を抑えるメカニズムも含まれるということ。


小室先生によると、細胞の老化の定義とは、「細胞が増殖を止めた状態」であるという。DNAが劣化してくると、細胞が増殖するときに癌化のリスクが増大するので、老化のメカニズムが発動し細胞は自発的に増殖を止めるという。つまり老化はがんの発生を抑制している。増殖を止めた細胞自体は代謝活動が活発であり、アポトーシスによる細胞死も起こさない。


心筋細胞や神経細胞など、もともと増殖しない細胞の老化の定義は難しく、まだ定義が存在しないという。


また近年、老化のマーカーと言える血中で測定可能な物質が同定されたという。それは補体のC1qであるという(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3529917/ )。


HIF1の臨床的な役割に関して、興味深い話もあった。重症な閉塞性動脈硬化症でPTAもバイパス手術もできない人に、単核球を足の筋肉に筋注すると、虚血を伴う心臓機能が改善するという。そのメカニズムは、単核球注射により筋肉細胞が再生を促されると、その筋肉細胞が相対的に虚血に陥りHIF1を放出する。それが局所の血管新生を促すだけでなく、心臓の血管新生をも促しているのではないかということ。


では、虚血性心疾患患者にASO加療を行うと、心臓の予後が改善するのだろうか。Pubmedで検索してみると、ASOをインターベンションすると薬物療法と比べて心血管病予後が改善するという報告が確かにあった(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3499211/http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22790191 )。


老化を無理に抑えると発がんにつながるという含蓄あることばを、循環器内科の教授から拝聴するとは思っていなかった。すごいです。