オレキシン受容体拮抗薬~新しい睡眠薬 | 生活習慣病の予防

オレキシン受容体拮抗薬~新しい睡眠薬

Suvorexant(ベルソムラ®)というオレキシン受容体拮抗薬が睡眠薬として2014年11月に日本で発売された。他国では未発売。2015年1月31日に、開発した製薬会社(MSD)が主催する講演会に行ってきた。

第Ⅲ相臨床試験の結果を解説されたのは久留米大学精神医学講座の内村直尚教授。


第Ⅲ相臨床試験のO28試験は、10022人を対象とした国際共同試験で、日本人も245人含まれる。

入眠作用と睡眠維持作用の評価方法は、主観的評価(Qコホート群)と、一部でpolysomnography(PSG)を用いた客観的評価(PQコホート群)。


<薬効>

客観的評価で見ると、Suvorexant内服により、入眠時間は28分早まり(プラセボでも17分早まる)、睡眠時間は55分延長する(プラセボでも20分延長する)。特筆すべきは、誘発される睡眠の質が従来のベンソジアゼピン系薬剤と異なることだ。ベンゾジアゼピン系薬剤では、ノンレム睡眠が延長され、レム睡眠はむしろ抑制されるのに対し、オレキシン受容体拮抗薬ではレム睡眠が延長し、ノンレム睡眠時間は不変。オレキシン受容体拮抗薬は、中途覚醒時間を短縮している。オレキシン受容体拮抗薬の方がより自然な睡眠を誘発しており、睡眠の質を改善していると言えそうだ。


<効果に関する主観的効果と客観的評価の差異>

主観的効果では、オレキシン受容体拮抗薬の内服期間が1週間→1か月→3か月と延長するほど、入眠作用と睡眠維持作用の評価が改善している。入眠までの短縮時間は、それぞれ-14分→-18分→-25分。睡眠時間の増加は、+29分→+41分→+55分。しかし面白いことに、客観的評価では、単回投与ですでに、観的評価の3か月内服後と同様な効果が表れている。実際に出ている薬効を実感するのに3か月かかるということになる。


<安全性>

①反跳性不眠はなし。

反跳性不眠とは、睡眠薬を中止したときに、睡眠薬を服用する前よりも不眠症状が悪化すること。ベンソジアゼピン系睡眠薬では長期内服後に中止すると一定の確率で認められる有害事象。これがオレキシン受容体拮抗薬では無いようだ。3か月ないし6か月間連用後に服薬を中止すると、入眠作用も睡眠維持作用も消失するが服薬開始前のレベルには戻らない。中止2日目には逆に服薬中のレベルに近づく。内村教授はこの結果を受けて、不眠症が治ったかどうかは、2日間服薬を中止すれば分かる、という表現をされていた。

②退薬症候はなし。

1年間内服後に服薬を中止しても、退薬症候(禁断症状)はない。

③副作用

20%で認めた。傾眠4.7%、頭痛3.9%、疲労感2.4%、悪夢1.2%、異常な夢0.8%。このうち夢関係は、レム睡眠を増加させているためか。ナルコレプシーで特徴的に見られるカタプレキシー(怒ったり喜んだりすると起こる脱力発作)は認められなかった。

④慎重投与

重症のSASと重症のCOPDは慎重投与。

慎重投与の意味;軽症~中等症のSAS/COPDでは、規定量の倍量投与で安全性が確認されている。重症では同様のテストをしていない。

⑤禁忌

CYP3Aを強く阻害する薬剤;イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビルはじめなんとかビルたち、ボリコナゾール。

⑥自動車の運転はだめ。

服用の翌朝の自動車走行検査の結果。


<多面的効果>

残念ながらなし。

オレキシンはそもそも食欲を亢進させる神経ペプチドとして同定されているため、血糖や体重への望ましい効果も期待されるが、正常者においては6か月内服で差はなし。血圧も有意差なし。

レム睡眠を増加させ睡眠の質を向上させることで認知機能の改善も期待されるが、DSSTという認知機能テスト(90秒で数字とシンボルを対応させるテスト)では単回投与、3か月投与いずれでも有意差なし(わずかに上昇に見えたが)。



最後に。本記事はあくまでブログ著者の個人的なメモです。正確な情報はメーカーの発表(添付文書等)を参照してください。