糖尿病性腎症の薬物療法 トリプルブロックの時代へ? | 生活習慣病の予防

糖尿病性腎症の薬物療法 トリプルブロックの時代へ?

糖尿病性腎症は、尿中アルブミンが300mg/gCreを超え顕性蛋白尿期に入ると、血糖コントロールは大勢に影響なく、腎機能低下の進行抑制のためには降圧療法が重要で、降圧を超えた腎保護効果を有する唯一の薬物療法はRAS阻害薬という状況が長く続いていました。

 

1st Block; RAS阻害薬

 

アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACI)が糖尿病性腎症に有効だとする初めての報告は1993年のColloaborative Study (NEJM 329:1456-1462, 1993)、カプトプリル(ACI)の1型糖尿病の顕性腎症に対する有効性。

 

アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が糖尿病性腎症に有効だとする初めての報告は2001年のRENAAL Study(ロサルタン;NEJM 345:861-869, 2001)とIDNT Study(イルベサルタン;NEJM 345:851-860, 2001)。この2論文はNEJMの同じ冊子に掲載されました。

 

ACIには空咳の副作用がでることがありますが、ARBにはそれが無いのがメリットです。

 

2nd Block; SGLT2阻害薬

 

エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)の心血管への安全性を見るための試験(Empa-Reg Study)で、エンパグリフロジンが糖尿病患者の心血管病の二次予防に有効だとする結果も衝撃的でしたが、エンパグリフロジンがどうやら腎臓にも良さそうだということが判明し、その腎アウトカムに関する論文が研究のPrimary outcomeではないのにも関わらすNEJMにアクセプトされるという事件が2016年に発生(N Engl J Med. 375:323-34, 2016)。腎アウトカムをprimary outcomeに設定したカナグリフロジンによる追試でSGLT2阻害薬の糖尿病性顕性腎症に対する保護効果が2019年に確認されました(N Engl J Med. 380:2295-306, 2019)。

さらには非糖尿病の慢性腎臓病にもSGLT2阻害薬が有効であることが報告されました(ダパグリフロジン;N Engl J Med 2020;383:1436-46)。

いずれのSGLT2阻害薬も、eGFRの低下スピードが投薬開始直後はむしろプラセボより悪化しますが(initial dip)、その後低下スピードが緩やかになり投薬開始1年後ぐらいでプラセボと交差してきます。

 

3rd Block; MRB

 

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)のスピロノラクトン,エプレレノンもまた腎保護効果を発揮すると考えられます。ステロイド骨格を有するスピロノラクトンは抗男性ホルモン作用を発現してしまうことがあり女性化乳房などの副作用があるのが難点ですが、非ステロイド性MRBであるエプレレノンはその副作用がありません。しかしエプレレノンは高カリウム血症の危険性から糖尿病性腎症への使用が禁止されています。

 

一方で非ステロイド性MRBのFinerenoneはスピロノラクトンと比べて高カリウム血症の副作用が少ないとの報告がありますが(Eur Heart J 34:2453-2463, 2013)、Finerenoneがプラセボと比べて有意に高カリウム血症を起こすことなく、糖尿病性腎症に有効であるとする報告が2020年にありました(Fidelio-DKD Study; NEJM 383:2219-29, 2020)。eGFRの推移を見ると、SGLT2阻害薬と同様投薬開始後はむしろプラセボより悪化していますが悪化の傾きは緩くなり、投薬開始後2年でプラセボと交差してきます。腎保護効果がはっきりしてくるのにSGLT2阻害薬よりは時間を要する印象です。

 

いろいろな要因でSGLT2阻害やMRBを投薬できない人もいるでしょうが、投薬可能な場合の糖尿病性腎症に対するfull medicationは今後はトリプルブロック療法ということになるかもしれません。ただし、Finerenoneは現時点で日本には入ってきておらず、おなじnonsteroidal MRBで糖尿病性腎症への投薬が可能なエサキセレノンに同様の薬効が期待されます。しかしエサキセレノンは世界展開をしておらず、finerenoneのような大規模RCTによるエビデンス構築は期待できないのが残念な点です。