生活習慣病の予防 -25ページ目

糖尿病性腎症と体質

糖尿病の3大合併症の一つである腎症について。


糖尿病で血糖コントロールが不良な状態が10~15年続くと、糖尿病性腎症を発症する人が出てきます。特徴は、尿中にたんぱく質が検出されるようになること。正常な状態では尿中にたんぱく質は検出されません。尿たんぱくが検出されるようになってからおおよそ10年で、腎不全で透析が必要になります。

糖尿病性腎症で透析が必要になる人は、年間に約1万3千人います。腎不全が必要で透析が新規に必要になる人は全体で約3万人ですから、約1/3が糖尿病が原因ということになります。糖尿病は透析の病因としては1位になります。


透析に必要な費用は、年に約400万~500万円です。現状では、透析費用は全額国費から支出されます。

糖尿病性腎症による透析患者の増加は、日本の医療費増加の一因となっています。この現状に対して、透析費用を一部自己負担にすべきではないか、と考える人もいます。不摂生が原因で合併症を発症した人は、その責任を自己負担するべきなのではないか、ということです。実際、日本以外の国では、かならずしも透析費用が無条件で国の保険からまかなわれているわけではありません。


そこで、少し難しい問題があります。糖尿病で腎症を発症しやすい体質があるようなのです。例えば、兄弟で糖尿病を発症した場合、片方が腎症を発症した場合はもう片方も腎症を発症する確率は80%以上、逆の場合は20%以下、という報告がNew England Journal of Medicineという医学雑誌にも報告されています。同じくらい過食で、同じくらい運動不足で、同じ程度の糖尿病でも、腎臓の合併症を発症する人としない人がいるわけです。糖尿病性腎症を発症しやすい体質があるということも考慮すると、少なくとも全額自己負担というのはやりすぎのような気がします。しかし今後は、医療経済が逼迫してくれば、病気の原因によっては透析費用の一部が自己負担ということになっていく可能性があるかもしれません。


食中毒の原因菌

夏場は食中毒のシーズンでもありますね。

原因となる細菌の頻度を見ると、サルモネラビブリオキャンピロバクター病原性大腸菌が多いようです。サルモネラは卵、鶏肉など、キャンピロバクターは鶏肉をはじめ食肉、ビプリオは魚介類の生食が原因です。病原性大腸菌は食肉などが考えられているようですね。

細菌の同定便の培養結果を待たねばなりませんが、キャンピロバクターだけは鏡検(顕微鏡検査)でも特徴的な形状(らせん型、?型)をしているので直ぐに分かります。病原性大腸菌のベロ毒素も緊急検査ができます。

治療は、水分とミネラルを十分補うこと(スポーツドリンクなどで)、下痢止めは使わず乳酸菌製剤の内服をする、炎症反応が強い場合などは抗生物質(ニューキノロン系かホスミシン)を使う、といったところです。


STDとしてのB型肝炎ウイルス

肝炎の原因となるウイルスの代表的なものとして、A型肝炎ウイルスHAV、B型肝炎ウイルスHBV、C型肝炎ウイルスHCVがあります。


HAVは食物や水などを介して経口感染しますが、一過性です。


それに対し、

HBVやHCV慢性化しうる点がHAVと大きく異なる点ですが、感染経路は血液感染です。母から子への出産時の垂直感染が最大の感染経路ですが、輸血、針治療、刺青や性交渉などでも感染します。HBVの垂直感染に関しては、ワクチンの出現および垂直感染防止目的のワクチン接種の保険適応化により1980年代から大幅に低下してきています。


成人になってからHBV、HCVに感染してしまった場合の慢性化率は、HBVは1%未満HCVはフィフティフィフティです。たとえばSTDとしてHBVをもらってしまった場合でも、99%は一過性の感染で終わるわけです。そういう意味では、HBVよりHCVの方が危険です。ウイルス肝炎は慢性化すると、肝硬変、肝臓がんへと進展する危険が出てきます。


ところが、HBVの中にも慢性化率の高いタイプが存在することが分かってきました。HBVにもさらに細分類があり、genotype A~Gまで分類されます。日本人の場合はほとんどがgenotype Cで、genotype Bも少しいるといった分布になっています。欧米で主流なのはgenotype Aです。このgenotype Aは慢性化率が10~20%と高いのですが、この厄介なHBVは風俗産業を介して日本で広まってきています。肝臓の教科書を読むとこの事実は記載されているのですが、「風俗産業」という言葉を回避している記載が多く大変分かり難い。


HBV感染症の治療法ですが、インターフェロンラミブジンに加え、2004年末からアデフォビルという薬が使えるようになりました。アデフォビルはラミブジンの欠点を改良した薬といえますが、なにしろ感染症は予防にしかず。危険行為は犯さないようにしましょう。

突然死の原因になる心電図異常「ブルガダ心電図」

突然死の原因のひとつに、突然起こる不整脈があります。

1992年にブルガダ兄弟が、特定の心電図異常所見を持っている人は、突然心室細動(実質的な心停止)をきたしうると発表しました。心電図異常は、右脚ブロック+前胸部誘導(V1-V3)のST上昇、という所見です。今ではこの所見はブルガダ心電図と呼ばれています。


ブルガダ心電図の原因ですが、一部は細胞膜に存在するNaチャンネルの異常だということがわかってきました。抗不整脈薬はいくつかのグループに分類されますが、このうちクラスⅠ群と呼ばれる薬はNaチャンネル遮断薬です。このクラスⅠ群の抗不整脈薬が、ブルガダ心電図を有する人では心室細動を誘発することがあることも分かってきました。


ブルガダ心電図の危険度ですが、2003年のブルガダ兄弟の報告によると、ブルガダ心電図を有する人全体での突然死の頻度が2年で8.5%でした。ブルガダ心電図を有する人の中でも特に、薬剤負荷や心臓の電気生理学的検査(EPS)で心室細動を誘発しうる人や、失神をしたことがある人では、特に突然死の危険度が高いことも報告されました。



2年間での突然死の頻度


            心室細動が誘発できない       心室細動が誘発できる


失神したことあり       4.1%                 27.2%


失神したことなし       1.8%                 14.0%



上記の数字は、ブルガダ兄弟が報告した論文によるものです。日本人の調査では、これよりも危険度が低いといわれているようです。ブルガダ兄弟の報告で突然死の頻度が高めに出ている理由として、突然死をしたことがある人の家系から対象者を集めてきているためだという考え方もあります。逆に言うと、日本人でも、血の繋がった人で突然死をした人がいる場合は、上記の数字が適応されうるということです。


治療法は、植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillators: ICD)を体内に埋め込むしかありません。この機器は非常に高価で、300~400万円します。この機器を植え込んだ場合、うつ病を発症する人も多く、自殺の危険が増すことも知られており、注意が必要です。あなたは突然心臓が止まる危険がありますと言われ、体内に電気ショックマシーンが植え込まれたらうつにもなりますよね。しかし、必要があれば躊躇はできません。


血の繋がった人で突然死をした方がいる場合は、若くても一度は心電図がブルガダ型でないかどうかチェックしたい所です。


文献


Right bundle branch block, persistent ST segment elevation and sudden cardiac death: a distinct clinical and electrocardiographic syndrome. A multicenter report.

Brudaga P, Brudaga J. J Am Coll Cardiol. 20:1391-1396, 1992


Determinants of sudden cardiac death in individuals with the electrocardiographic pattern of Brugada syndrome and no previous arrest.

Brugada B, Brugada R, Brugada P. Circulation 108:3092-3096, 2003

微量元素欠乏で死ぬことはあるか

 微量元素には亜鉛、銅、クロム、マンガン、セレン、モリブデンなどがあります。亜鉛が欠乏することによる味覚障害は有名ですが、微量元素の欠乏によって死ぬことはあるのでしょうか。

 唯一セレンの欠乏は死に至ことがあるようです。

 微量元素というものは、普通の生活をしていれば欠乏することはあり得ませんが、製薬会社が作った流動食だけを3~5年以上摂取している人などは、セレンが入っていない流動食もあるため、セレン欠乏により心不全に至り、場合によっては突然死することもあるようです。予防には、関西方面であれば水道水を摂取するだけでもよいとか(関西の水は汚いのか?)。関東は水道水のセレン含有量が低いようです。他には、シジミ汁にセレンが含まれています。経管栄養で生きている人は、月に一回シジミ汁を摂取するだけでも良いようです。


次回予告;


 突然死に関するコメントを頂いたので、次回は突然死する危険がある心電図異常「ブルガダ心電図」に関し、危険度と治療法について記事を書きます。

大動脈瘤の手術によらない治療

動脈瘤という病気があります。動脈が瘤状に拡張してしまう状態です。最大の原因は動脈硬化です。

大動脈瘤は径が5-6cmを越えると破裂する危険が出てきます。破裂すればほぼ即死します。

(じわじわと出血し、病院にたどり着くまでもつ事もありますが)

治療は、今までは手術で人工血管に置換するしかありませんでした。

高齢を理由に手術してまで直したくないとおっしゃる方もおり、大動脈瘤の存在が分かっていながらそれが原因で死なれる方もいらっしゃるような病気です。

この大動脈瘤を手術せずに直す方法があります。大腿動脈から局所麻酔でカテーテルを使ってステントグラフトと言う筒状の人口血管を血管づたいに動脈瘤の内側に内挿する方法です。これなら体にほとんど負担をかけずに治療可能です。

問題点は2つあります。

1つは、ステントグラフトに健康保険が適応されないこと。

2つ目は、10年以上の長期成績が無いこと。

1つ目の問題に関しては、研究目的にステントグラフト代に関しては無償で治療をしてくれる病院があるので、そこに依頼することでクリアできます。

2つ目の問題に関しては、今月号のNew England Journal of Medicineという雑誌に、2年間の追跡調査の結果は発表されました。動脈瘤に関連する累積死亡率は,開腹手術群で 5.7%,ステントグラフト群で 2.1%とステントグラフトの方が優れていましたが、これは周術期の安全性を反映しており(手術より安全ということ)、治療後の2年間の経過では成績に差はありませんでした。


少なくとも、動脈瘤を無治療で放置するよりは明かにステントグラフトで治療した方が優れていますね。

早く健康保険適応になってほしい治療です。

がん予防8か条

国立がんセンターのホームページに、6月1日付けで科学的根拠に基づくがん予防の情報が掲載されました。がんセンターが中心になって行っている、全国11保健所管内14万人の地域住民を対象とした、生活習慣とがんなど成人病発症との関連についての長期追跡調査(厚生労働省による多目的コホート研究)がありますが、その結果も踏まえてのもののようです。


そこで発表されたがん予防8か条は以下の通り。


・禁煙。受動喫煙を避ける。

・適度な飲酒。日本酒換算で1日1合(ビールで大瓶1本)以内。飲まない人は無理に飲まない。

・野菜・果物を一日400g以上。

・食塩は一日10g未満。

・定期的な運動。毎日60分の歩行に加え、週に1回は汗をかく様な激しい運動をするなど。

・太り過ぎない、やせすぎない。

・熱い飲食物は最小限に。

・肝炎ウイルス感染の有無を知り、その治療や予防の措置をとる。


興味のある方は国立がんセンターのホームページへ(http://www.ncc.go.jp/jp/index.html )。

血管年齢

私たちの体は年と共に老化していきますが、全ての臓器が同じスピードで老化するわけではありません。

例えば、高血圧、高脂血症や糖尿病を放置したり、喫煙を続ければ、血管は早く動脈硬化を起こし、いわば早く老化します。


血管年齢を見る指標の一つに、頚動脈の内膜中膜複合体厚(IMT; intima-media thickness)があります。これは、頚動脈エコー検査で簡単に調べられます。人間ドックのオプション検査の一つです。日常臨床では、頚動脈硬化が疑われる場合(聴診上雑音があるなど)に行われます。ある医療機関を受診した健診受診者(約3千人)のデータを解析した事がありますが、年齢別に以下のような結果でした。


     IMT (mean±SD mm)    

20歳台 0.48±0.10

30歳台 0.54±0.15

40歳台 0.58±0.13

50歳台 0.66±0.18

60歳台 0.75±0.21

70歳台 0.86±0.20

80歳台 0.91±0.18


アバウトに言えば、特に40歳以降はIMTの0.01mmの肥厚が血管年齢の1歳増加に相当します。 この視点からすると、合併症の有無などにより血管年齢は以下のように増加していました。


 男性(女性に比べ)  4歳 

 高血圧         9歳

 高血糖         9歳

 高コレステロール   4歳

 喫煙          1歳


もちろん、上記の数字は解析対象者が変われば変動する可能性があります。高血糖とは、空腹時血糖値が110mg/dl以上。例えばこういった定義が変われば、また数字は変動します。ただ、このブログの記事は医学雑誌に投稿するのとは違いますから、細かい解説は省略しえいやと出してしまいました。

解析した約3千人のうち、血圧・血中脂質・血糖すべて正常で、かつ肥満も無く喫煙もせず、頚動脈エコー上プラーク(病的な動脈硬化;粥状硬化巣)も無い人は、約250人(8%)しかいませんでしたが、その人たちに限ってデータを見てみると、以下の様でした。


     IMT (mean±SD mm)   

20歳台 0.43±0.06

30歳台 0.54±0.12

40歳台 0.54±0.12

50歳台 0.59±0.11

60歳台 0.62±0.16

70歳台 0.88±0.19


動脈硬化のリスクが全く無い人たでは、60歳台までは血管年齢は緩徐に進行し、70歳を超えると急激に進行している印象がありますね。


人間ドックで頚動脈エコーを測定した場合などに、上記の数字を参考にしてみてください。
このように、臓器別の老化進行度を測定するすべはありますから、臨床疫学が進歩すれば全身の加齢診断も可能になるでしょうね。

慢性的な咳の原因

「他に異常は特に無いのですが、咳だけが2週間以上続いているのです」といった症状で内科外来に来られる方は結構いらっしゃいます。それで、必ずしも生活習慣病と関係ありませんが、本日のテーマは慢性的な咳の原因について。


咳だけでなく、微熱が続く場合には結核や異型肺炎なども疑わなければなりません。血痰がでる場合などは、結核や肺がんの可能性もあります。熱も痰も無く、空咳だけが続く場合の原因として何が考えられるでしょうか。


1)感冒後の一種の後遺症としての咳 (post infectious cough)

 これは結構多い。一ヶ月位続くこともあります。通常の咳止め症状を抑えつつ、止まるのを待ちます。


2)アレルギー性の咳 (cough variant asthma, atopic cough)

 喘息やアトピーの素因を持っている人に、慢性的な咳や、花粉症のシーズンに一致した咳が出ることがあります。咳が喘息の症状である事もあります。このタイプの咳は、気管支拡張薬が有効です。ステロイドまで使わないと止まらないこともあります。

 小児喘息の既往がある人、血のつながった人に喘息やアトピーの人がいる場合などは要注意です。


3)胃食道逆流症 (GERD: gastroesophageal reflux disease)

 胃酸が食道に逆流し、胸焼けや時に口中に酸っぱい味がするなどの症状を呈する病気が胃食道逆流症です。胃酸の逆流による刺激で、慢性的な咳が出ることがあります。治療は、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)が有効です。


4)後鼻漏

 慢性的な鼻炎や副鼻腔炎などで、常時のどに鼻汁がたれている(後鼻漏)状態では、鼻汁の刺激で慢性的な咳が出ることがあります。治療は当然ながら、鼻炎や副鼻腔炎の治療です。


5)血圧降下剤の副作用

 降圧剤の中でも、アンギオテンシン変換酵素阻害薬というタイプの薬で副作用として空咳が出ることがあります。同じ系統の薬ですが、アンギオテンシンⅡ-1型受容体拮抗薬というタイプでは空咳の副作用が出にくい。この場合の治療は当然ながら、降圧剤の変更です。


 喫煙に伴う咳などは解説の必要もありませんね。慢性的な咳の主要な原因は、以上のようなものです。

禁煙でどれくらい寿命が延びるか

禁煙でどれくらい寿命が延びるかという事に関して、イギリスで約3万4千人の男性医師を50年追跡調査した報告があります。


まず、喫煙者は非喫煙者に比べ10年寿命が短いのですが、18歳で喫煙開始として、30歳までに禁煙すれば寿命はほぼ変わらない事が分かりました。40歳で禁煙すると9年50歳で6年60歳でも3年の寿命を稼げるとのことです。日本人は英国人に比べ寿命が長いですから、禁煙のメリットはもう少しあるかもしれませんね。


先日内科外来で拝見した患者様で、59歳で禁煙された方がいらっしゃいました。「素晴らしいですね、寿命が6年延びますよ!是非頑張って続けてください。」と言ってしまいましたが、ちょっと不正確だったかな…。




出典:Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors. Richard Doll et al. BMJ 1519-1528, 2004