生活習慣病の予防 -27ページ目

大腸がんの予防法2

日本人の栄養摂取の弱点の一つは、カルシウム摂取が少ない事です。2002年国民栄養調査によると、日本人のカルシウム摂取量の平均値は、女性で535mg、男性で559mg。カルシウム摂取が不足すれば骨粗鬆症のリスク増加が懸念されますが、それ以外に大腸がんに罹患する危険が増大するかもしれません。欧米の男女53万人を6-16年追跡したところ、カルシウムを一日700mg以上とるグループでは大腸がんのリスクが20%程度低かったとする報告があります。カルシウムを摂取するのに牛乳も良いですが、牛乳も取りすぎればカロリー過多の一因になります。特に糖尿病などある場合は牛乳取りすぎも要注意。牛乳180ml程度(カルシウム約200mgを含有)を毎日摂取するのはお勧めです。他に、小魚、大豆製品(豆腐や納豆)、緑黄色野菜(小松菜、水菜、青梗菜)もカルシウムが多いようですね。

論文:Cho E, et al. Dairy foods, calcium, and colorectal cancer: a pooled analysis of 10 cohort studies. J Natl Cancer Inst. 2004;96:1015-1022

糖尿病の漢方薬の危険性

 西洋医学の医薬品は、病院で処方できるようになるためには臨床治験が行われ、薬の有効性や安全性が証明されなければなりません。漢方薬にも健康保険で処方可能なものもありますが、政治的に健康保険適応が決まった経緯があるようです。
 漢方薬は中国4千年の歴史の中で培われてきた薬品ですから、使い方が正しければもちろん有効なものも多いはずですが、副作用が無い訳ではありません。例えば、トリカブトが附子(ブシ)・烏頭(ウズ)といった名称で成分に含まれているものもあります。
 未承認の漢方薬は、一層危険です。中国で販売されているから西洋医薬が含まれていないとは限らない。例えば、漢方降糖薬にはグリベンクラミドという強力なインスリン分泌刺激薬(SU剤)が含まれており、死亡事故も報告されています(http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1009/h0925-1.html)。
 やはり未承認薬で、珍ぎ降糖という薬に鉛が入っていたため、鉛中毒が発生したという報告もありました(1998年、雑誌「糖尿病」(日本糖尿病学会誌))。
 先日、10年あまり我流の治療を続けてきたが、手足がしびれるようになってきたのを契機に内科外来を受診された方がいました。その方が個人で購入して飲んでいた薬を見て驚きました。消渇丸という薬ですが、これもまたグリベンクラミドが入っている薬です。インターネットで容易に入手できるようです。これは規制できないのだろうか。
 漢方や中国製の薬も副作用はあるし死ぬこともある。要注意です。

ED

 糖尿病患者の30%はEDだとする報告もあります。EDの原因としては、3大合併症の一つである神経障害と、動脈硬化による血行障害が考えられます。
 治療薬として、バイアグラ(ファイザー製薬)が発売されて注目されました。糖尿病の人はEDが多い訳だから、治療薬の良い適応にはなりますが、一方で糖尿病だからこそ使用上注意しなければならないことがあります。
 バイアグラは硝酸薬(いわゆるニトロ)と併用するとショック(血圧が急降下)になります。EDになるような神経障害を持っている糖尿病の方は、自律神経も鈍くなっていて、無痛性の狭心症を持っていることがあります(2/23の記事参照)。米国でのバイアグラによる死亡報告は、糖尿病患者が目立ちます。従って、糖尿病の方がバイアグラを使用する場合は、かならず労作性胸痛(運動時の胸痛)の症状が無くても、運動負荷心電図を行い無症候性狭心症の除外をしておかねばなりません。
 糖尿病の場合はバイアグラの有効率が低くなるようですが、最近はレビトラという新しい薬(バイエル製薬)もでています。メーカーの説明によると、バイアグラより糖尿病の人に対して有効性が高いようです。硝酸薬と併用するとショックになる点で、注意事項はバイアグラと同じです。

リンの欠乏で死ぬことはあるか

 リンの欠乏で死ぬことはあるか。臨床の現場では低リン血症で、すわ緊急事態となることがなかなか無いのです。それで、経験の浅い研修医にはリンの重要性がピンと来ない。
 そこで指導医が披露するとっておきの面白い話(そこまででもないか)。戦国時代に、長期の籠城から解放された武士たちがやっと食物にありついた。握り飯だけにかぶりついた人はどんどん死んでいったが、肉も食った人は助かった。なぜか。肉にはリンが入っているからだ。…本当にそんな記録が残っているのかな。
 まあ、それほどひどい飢餓状態にならなければ、リンはなかなか欠乏しにくいミネラルではあるわけです。骨にたくさんストックされていますから。

 少し解説。
 内科医になるべく臨床研修を始めた時、まず習得すべき事の一つは輸液管理です。病態に応じた最適の点滴管理が出来るようになることですね。脱水の補正、ショック時の点滴、心不全の場合、腎不全の場合、肝硬変の場合etc。
 輸液の基本は水分量、カロリー(主にブドウ糖)、電解質(ミネラル)、ビタミンの組み立てです。長期に及ぶ点滴管理ではアミノ酸や脂肪、微量元素なども必要です。
 ミネラルで最も重要なのは、まずはナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロライド(Cl)です。次にカルシウム(Ca)、リン(P)、鉄(Fe)、そしてマグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)といった順番でしょうか。指導医は、研修医に「べし、べからず」を叩き込みます。カリウムは静脈注射するな、心停止で死ぬぞ、かならず薄めて点滴するんだ、から始まり、一日のミネラルの所要量、病態に応じた調節法を教えます。
 さて、リンは体内でどんな働きをしているのか。第一に、体内で炭水化物が酸素で燃やされエネルギーが取り出されると、最終的にエネルギーはアデノシン3リン酸(ATP)という形で保存されます。ここでリンが必要。生きて行くために必須の働きです。第二に、特定のグループのホルモン群がその活性を発揮するために(細胞内シグナル伝達のために)リン酸化は必須の反応です。第三に、リンは物理的に骨の構成要素。etc。
 上記の逸話で、なぜ握り飯だけ食べたら死んだか。低リン血症の状態でブドウ糖を摂取すると、ブドウ糖が細胞内に取り込まれるのと共にリンも細胞内に取り込まれて消費されるため、低リン血症が致命的に悪化して死に至った可能性があるわけです。

手術でなおる高血圧

 高血圧の最大の原因は動脈硬化です。動脈硬化のリスクは加齢、男性(女性に比べ)、高血圧自身、高脂血症、糖尿病、喫煙などです。また肥満や塩分摂取過多など生活習慣でも血圧は上昇します。
 しかし、高血圧の中には二次性高血圧といって、別の疾患によって二次的に起こる高血圧もあります。ホルモン異常による高血圧もありますが、その中でも一番頻度的に多い(新規高血圧の約6%)として注目されているのが、原発性アルドステロン症です。
 原発性アルドステロン症は、副腎皮質から分泌される鉱質コルチコイド(ミネラルの代謝を司るホルモン)であるアルドステロンが出すぎてしまっている疾患で、高血圧、低カリウム血症を呈します。特に、片側の副腎腫瘍(良性であることが多い)がアルドステロンを過剰産生している場合は、手術で腺腫を除去すれば直ります。現在は、腹腔鏡(内視鏡)で手術できます。
 どうすれば発見できるか。朝、できれば安静臥床状態で採血し、レニン、アルドステロンというホルモンの値を測定すれば、採血1本でスクリーニングできます。以前は、低カリウム血症を伴うことが多いとされていましたが、実際には原発性アルドステロン症の約30%に過ぎないと分かってきたので、新規に高血圧と診断された人には本疾患をルーチンでチェックすべきかも知れません。

なぜ糖尿病で壊疽になるか

 有名人が糖尿病で壊疽になり足を切断した、などというニュースを見聞きすると、なぜ足が腐るまで放っておけるのかと疑問に思いませんか。
 壊疽の原因は大別すると2つあります。細菌感染と血行不良です。原因がいずれにせよ、足が腐るなんて物凄く痛そうじゃないですか。
 糖尿病の合併症が進行すると、痛みを感じにくくなってしまうのです。これが、糖尿病性壊疽の真の原因です。糖尿病の3大合併症の中に神経障害があります。指先、足先のしびれから始まり、だんだん手足の感覚が鈍くなって、それでも高血糖状態を放置すると最終的には痛みを感じなくなってしまいます。ここまで糖尿病性神経障害が進行すると、壊疽の原因になります。
 典型的な糖尿病性壊疽の顛末はこんな感じです。
 “あれ、新しい靴が合わなかったのかな。足に靴擦れが出来ている。でも全然痛くないからいいや。”しばらく放置。しかし、靴擦れの部分がだんだん赤く腫れあがってきた。気になり始めたが、やはり痛くないのと、仕事が忙しいのでやっぱり放置。次第に色が赤から紫がかってきて、さらに最近はどす黒さも出てきた。やはり全然痛くないが、見た目があまりにひどい。傷口は一応自分で消毒しているが、包帯に浸出液がどんどん染み出してきて、知らない間にぐっしょり濡れている始末。普段は忙しさにかまけて2月に一回、ひどい時は薬だけもらって3-4ヶ月に一回しか病院を受診していないが、予約を早めてついに病院に行くことにした。靴擦れが出来てから一ヶ月近く経っていた。病院に行くと、診察した後に採血と足のレントゲン検査をするように言われた。至急現像されたレントゲン写真が診察室のシャウカステンに掛けられた。主治医が深刻な顔をしている。「○○さん、糖尿病性壊疽です。壊疽が骨にまで及んでいます。痛くないんですか?」医師がゾンデ(金属の棒)を傷口に差し入れる。ずぶずぶと2-3cmも入って行く。うひゃー。でも、全然痛くないぞ。医師、「血液検査で炎症反応も高値です。放置すると壊疽がどんどん広がり、命にも関わります。傷口に感染している細菌の種類を調べるため培養検査を出しました。とりあえず入院のうえ、抗生物質で治療しましょう。しかし、切断も覚悟しておかなければなりません。」…絶句。
 痛みを感じるというのは、大変大切なことなのですね。

「病は気から」は本当か2

 急激な精神的ストレスにより一時的に心不全になる事があるようです。そのメカニズムに関する論文が、今月のNew England Journal of Medicineという医学雑誌に出ていました。
 19人の患者が対象。患者の年齢の平均は63才で95%が女性という特徴がありました。心臓を栄養する血管(冠動脈)を造影して検査しても、有意な動脈硬化が見られたのは1人だけでした。5人で心筋を生検(少し組織を取って顕微鏡で調べる)しており、炎症の跡や部分的な壊死がみられました。患者の特徴は、血中のカテコラミンというホルモンの値が、心筋梗塞による同程度の心不全の患者より有意に高かったこと。論文は、精神的ストレスによる過度の交感神経の刺激が、心不全の主要な原因と結論づけています。
 私自身は急激な精神的ストレスによる、冠動脈に異常が無い心不全は見たことがありません。頻度としてはめずらしいのでしょうが、ストレスによる病も怖いですね。

追記

 急激な精神的ストレスによる一時的な心不全は、日本では「たこつぼ型心筋症」として認識されているようです。

痛くない心筋梗塞

 心臓は私たちの全身に血液を送り出すポンプです。絶え間なく動いている筋肉の塊ですから、心臓は自分自身がエネルギー、血液の供給を必要としています。心臓に栄養を供給する血管は冠動脈といって、大きく分けると3本あります。それぞれ心臓の右側、左前方、左側面に血液を供給します。
 動脈硬化により心臓の血管内腔に狭いところができると、安静時には血液の供給が足りていても、労作時(走ったり、階段を上った時など)には心臓は心拍数が増しより多くの血液の供給が必要となり、胸が圧迫される感じ、あるいは絞めつけられる感じがすることがあります。休むと治ります。これがいわゆる狭心症の状態です。
 心臓を栄養する血管が完全に閉塞してしまうと、閉塞部位より末梢側の心筋が壊死してしまい、心筋梗塞の状態になります。
 心筋梗塞を起こすと、普通は非常に痛い。冷や汗をかき、苦悶状態になります。しかし、狭心症や、心筋梗塞の状態になってもぜんぜん痛くならない人がいます。知らない間に心筋梗塞を起こした結果、心臓のポンプ機能が低下し、体がむくんだり息苦しくなったりして、初めて病院を受診し、心不全と診断される人がいます。
 どういう人が無痛性心筋梗塞を起こすのか。原因は、糖尿病です。糖尿病の3大合併症の中に神経障害があります。指先、足先のしびれから始まり、だんだん手足の感覚が鈍くなってくる合併症ですが、糖尿病性神経障害は自律神経にもおよびます。心臓を支配する神経も鈍くなった結果、無痛性心筋梗塞を起こしうる状態になります。
 したがって、糖尿病の人、特に病歴が10年以上など長い人は、定期的に(年に一回など)運動負荷心電図(階段の上り下りをして、前後で心電図をとる検査)をした方がよい。症状がなくても、狭心症が発見され早期治療につながることがあります。

「病は気から」は本当か

 1999年にLancetという医学雑誌に報告された論文です。イギリスの報告ですが、乳がんを告知され手術を受けた人が、告知をされたときどのような心理状態で受け止めたかでグループ分けし、5年以上にわたり予後を追跡しました。一番多かったのは平静に受け止めた人。他に闘争的な心理状態になった人(fighting spiritと表現されています)、逆に落ち込んでしまった人(helplessness and hopelessness)もいました。一番予後が良かったのが、fighting spirit群、一番悪かったのが気分落ち込み群で、その間が大多数の平静な人の群、という結果でした。ただし、統計学的に有意だったのは、気分落ち込み群の予後が悪い、という結果だけでした。
 ある程度は心理状態もがん治療の予後に影響するのでしょうね。

痴呆の予防

 高齢化社会に伴って認知障害(痴呆)も増加しています。ただ寿命をのばすだけでなく、健康寿命を延ばしたい私たちにとって、痴呆は大敵です。
 痴呆の2大原因はアルツハイマー症候群と脳血管性痴呆です。アルツハイマー症候群は、最近は治療薬もあるものの効果は限定的で、病因の解明も不十分でありどうすれば予防できるのかは未だ不明な部分も多い。しかし、脳血管性痴呆は、脳血管の動脈硬化によって脳の血行不良が生じ、麻痺を伴わない無症候性脳梗塞が多発したりした結果発生します。特に糖尿病の人に多い。こちらは予防できます。
 動脈硬化の進展を防ぐために、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙をコントロールすれば脳血管性痴呆は予防できるはずです。