生活習慣病の予防 -26ページ目

肝硬変になりうる脂肪肝

脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまり過ぎた状態。栄養の取りすぎ飲酒過多でも生じるわりとありふれた疾患です。摂生により可逆的な状態であり、アルコール性脂肪肝で飲酒がやめられない状態(アルコール中毒)を除けば心配ない状態と考えられてきました。人間ドックで腹部エコー検査の結果「肝臓がフォアグラ状態ですよ」などと気軽に言われた人もいらっしゃることでしょう。


しかし一般的な脂肪肝の中にも進行性に悪化し肝硬変になりうるものもあることが分かってきました。

NASH(Non Alcoholic SteatoHepatitis:非アルコール性脂肪性肝炎)です。アメリカでは脂肪肝のうち10%がNASHであり、NASHであれば10年で20%が肝硬変に進行するという報告もあります。しかし日本においては脂肪肝におけるNASHの頻度はそれほど多くないと考えられており、あまり注目されていませんでした。日本でもNASHが注目されるきっかけになったのは、2003年に京大病院で生体肝移植のドナー(臓器提供者の方)が死亡してしまった事故がきっかけだったように思います。死亡したドナーはNASHでした。


NASHのハイリスク群メタボリックシンドロームです。最近、外国だけでなく日本でも研究チームが随所で稼動しており、研究論文が多数発行されつつあります。


NASHの診断には、肝生検しか方法がありません。筆者の勤務先の病院でも、メタボリックシンドロームに発生した脂肪肝症例を中心に、スクリーニング基準を設けて積極的にNASHを診断・治療しています。その結果、従来の概念だと到底重度の肝障害とは思えない症例で進行したNASHが発見される事もあり大変驚いています。例えば、低アルブミン血症も無く、血小板も20万以上あり、GOT・GPTもせいぜい2桁の上昇なのに、肝組織の繊維化の程度がF3であることが判明したり・・・(この辺分かりにくくてすみません)。


NASHの治療は、まずは生活習慣の改善です。メタボリックシンドロームの原因である内臓脂肪を減らせば、NASHも改善します。薬物療法はまだ確立してはいません。2001年にビグアナイド剤という本来糖尿病の薬がNASHに有効であることがLANCETという雑誌に報告されました。他にも有効と思われる薬の報告があり、我々も使用しています。NASHは思った以上に要注意である、というのが現時点での感想です。しかし、早期発見・早期治療することも可能です。我々の病院としても、症例数がある程度そろって解析が終了したら、正式に論文をpublishする予定です。まとめると、メタボリックシンドロームに該当する人は、脂肪肝を甘くみてはいけない、という話です。

メタボリックシンドローム 2

同テーマで3/12に記事を書いてきますが、この時点ではメタボリックシンドローム(代謝症候群)の日本人むけの診断基準がありませんでした。今月8日に、日本内科学会で日本の診断基準が発表されたので、追加記事を記載致します。

 

メタボリックシンドロームとは

血圧が高い、中性脂肪が高い、血糖が高いといった異常が軽度であっても、複数集積すると動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)が起こりやすくなるという概念です。軽度の異常が集積する根本的な原因として、内臓脂肪の蓄積があるようだ、と考えられるようになってきました。

 

メタボリックシンドロームの診断基準

 

必須項目

 男性:ウエスト85cm以上

 女性:ウエスト90cm以上

 

必須項目を満たした上で、下記の3項目中2項目以上を満たした場合にメタボリックシンドロームと診断。

1.血圧

  収縮期血圧が130mmHg以上、または拡張期血圧が85mmHg以上。

2.中性脂肪

  中性脂肪が150mg/dl以上、またはHDLコレステロールが40mg/dl未満。(朝食前採血で)

3.血糖値

 空腹時血糖値が110mg/dl以上。

 

解説

動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)のコントロール可能な4大危険因子として、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙が挙げられます。個々の危険因子の治療は、動脈硬化の予防のために取り組まれて来た結果、一定の成果を挙げるに至りました。

特に高コレステロール血症は、そのメカニズムがノーベル医学賞を受賞した研究で解明されて以来、急速に進歩してきました。食事・運動療法でコントロール不良な場合、スタチン系と言われる薬剤が発見され使用されるようになってから、治療成績が格段に改善しました。スタチンは、抗生物質のペニシリンと同様にカビから発見された薬剤で、「血管のペニシリン」と言われる程に高コレステロール血症治療の第一選択薬(まず使うべき薬)として力を発揮しています。

高脂血症と言うと、高コレステロール血症と高中性脂肪血症がありますが、動脈硬化を起こしやすくする原因としては高コレステロール血症の方がより危険なため、高中性脂肪血症の治療は後回しにされてきた面もあります。しかし、高中性脂肪血症だけでなく、血糖や血圧が高めな状態も併発していると、個々の異常が糖尿病や高血圧の診断に至らない軽度の異常であっても、動脈硬化性疾患のリスクが4大リスクに劣らず上昇することが分かってきました。それらの異常集積の根本的な原因として、内臓脂肪の蓄積が考えられるようになってきました。

ウエストサイズについて

内臓脂肪量の評価は、厳密には腹部CTスキャンが必要ですが、なかなかそういう訳にもいきません。簡便な指標として、ウエストサイズが診断基準に採用されました。上記診断基準のウエストサイズが、おおむね臍の高さでCTスキャンを撮影した場合に、内臓脂肪の面積が100cm2に相当します。

男性と女性を比較して、女性が甘めになっています。女性の方が男子に比べ、同じBMIでも体脂肪率が高めですが、それはもっぱら皮下脂肪の蓄積によるものだからです。

血圧について

高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上です。収縮期血圧130~139mmHg、拡張期血圧85~89mmHgは正常高値血圧とされてきましたが、これぐらい軽度な異常でも他の異常を伴っていると無視できないという事です。

中性脂肪について

中性脂肪とHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)はシーソーの関係にあります。片方が上がると片方が下がります。

血糖値について

空腹時血糖値の正常値は70~109mg/dlです。糖尿病型と判定されるのは126mg/dl以上。110~125mg/dlは境界型です。血圧と同様、この程度に軽度な異常でも、他の異常を伴っていると無視できない、という事。

糖尿病との関係

糖尿病は太っている人も多いし、非糖尿病に比べ高血圧や高中性脂肪血症の頻度も高い。実際、糖尿病の約60%はメタボリックシンドローム型との報告もあります。糖尿病でも内臓脂肪の蓄積は原因として重要なのですね。

私がある日の外来で拝見した糖尿病の患者様で、新診断基準でメタボリックシンドロームと診断される人の割合を見てみた所、男性で21人中10人(48%)、女性で8人中0人でした。男性に比べ女性の方が動脈硬化性疾患を起こしにくいのは事実ですが、診断基準は女性に甘すぎるかも、という印象を持ちました。

 

 

 

 

慢性膵炎と膵臓がん

2005年4月7日~9日にかけて大阪国際会議場で日本内科学会が開かれた。最終日に「消化器疾患と生活習慣」というシンポジウムがあり、その中から産業医科大学・大槻眞教授の講演の備忘録。


慢性膵炎の患者は日本に約4万5千人

2大原因アルコール胆石。慢性膵炎の7割弱がアルコール摂取過剰が原因と考えられ、慢性膵炎は生活習慣病といっても良い面がある。


慢性膵炎の7割弱がアルコールが原因だが、逆に大量飲酒者の何割が慢性膵炎になるのか。断酒会の会員の約17%が慢性膵炎という報告もある。


慢性膵炎は膵臓がんの原因になるのか。慢性膵炎の患者のうち44%ががんになる。そのうち膵臓がんは約1/4。一般人口の約30%ががんで死ぬ事と比較し、慢性膵炎は膵臓がんになりやすいといえる。

慢性膵炎の診断から膵臓がん死まで約10年の経過を要するが、慢性膵炎のうち10人に1人がそのようなコースを辿る計算になる。


膵臓がん危険因子は何か。疫学的な調査から証明されているのは今までのところ喫煙だけと考えられていたが、大槻教授は他にアルコール、糖尿病、肥満かつ運動不足、脂肪摂取過剰を可能性としてあげていた。アルコールは上記のように慢性膵炎を介してがんにつながると考えると納得できる。


今まで糖尿病は膵臓疾患の結果であって原因ではないと考えられていましたが、大槻教授は糖尿病10年以上の病歴で膵臓がんのリスクが1.5倍になるという可能性を指摘していた。肥満かつ運動不足に関しては、BMI=30でリスク2倍。


膵臓がんの予防につながる食物栄養としては、evidenceの確かさからは野菜・果物が確実、食物繊維ビタミンCなどがほぼ確実という事。実験的にはカテキンなど抗酸化物質が有効との事でした。

肺炎ワクチン

感染症は、世界的に見れば死因の1位です。日本では、1位はがん(約30%)、2位が心疾患(約15%)、3位が脳血管疾患(約15%)で、4位に肺炎(約8%)がやっと登場します。感染症を減らすのに最も重要なのは医療では無く、衛生環境や栄養状態の改善です。国が豊かになるほど感染症は減って行きます。栄養不良が一般的な国では、子供を感染症から守るためにはワクチンより栄養が大事ということですね。

肺炎のハイリスク群は、日本では高齢者です。年齢別の死因統計を見ると、やはり65歳以上では肺炎で討ち取られてしまう人が増えてきます。肺炎の起因菌として一番多いのは、原因の約30%を占める肺炎球菌です。この肺炎球菌にも細かい型がありますが、その約8割に有効な肺炎球菌ワクチン(製品名ニューモバックス)があります。これが意外に知られていないのですね。これは、インフルエンザワクチンのように毎年接種するのではなく、一生に一度やれば良いものです。65歳を越えたおじいちゃん、おばあちゃんには勧めてあげた方が良いかもしれません。

痛風

痛風の原因は血中の尿酸過剰です。尿酸の血漿中の飽和溶解度は約7mg/dlで、これより高い尿酸血中濃度だと尿酸塩結晶が析出しやすくなります。尿酸の血中濃度が8mg/dl台の人の5%9mg/dl台の約30%に痛風発作が出るという報告もあります。このデータから、症状が無い無症候性高尿酸血症でも、9mg/dl以上は薬物治療の対象という考え方もあります。
症状ですが、関節腔内に尿酸塩結晶が析出することにより関節炎、尿路に結晶が析出することにより尿路結石、皮下に結晶が析出することにより皮下結節(痛風結節)を発症します。関節炎は、特に足の親指の付け根が腫れあがって痛くなるのが特徴的です。風が吹いても痛いから痛風?尿路結石以外に、痛風腎と言って腎障害を生じる事もあります。
原因ですが、高尿酸血症になりやすい体質は第一に考えられます。しかし、当然尿酸の原材料であるプリン体の摂取過剰でもなりやすいので、痛風は生活習慣病と言える面があります。
プリン体とは、細胞の核に含まれる塩基の中の一つです。だから、たんぱく質を取りすぎると摂取過剰になりえます。特に内臓(もつ、レバーなど)に多い。また、アルコールは尿酸の尿中への排泄を阻害するので、高尿酸血症の原因になりえます。プリン体の含量が多いアルコール飲料であるビールは、尿酸値が高い人にとっては危険です。発泡酒は、ビールに比べて使用する麦芽の量が少ないので、プリン体の含量が少ないようです(1/4程度とするメーカーの調査結果もあります)。最近ではプリン体カットのビールなどもありますよね。私はビールは飲まないのですが、味はどうなんでしょうか。
肥満と血中尿酸値も正に相関しています。血中尿酸値をY mg/dl、BMIをX kg/m2として、Y=0.41X-4.1(相関係数0.805)とする報告もあります。
治療はまず食事療法でプリン体制限、節酒、カロリー制限。内服治療としては、尿酸合成阻害薬、尿酸排泄促進薬があります。尿のPHが低いと尿酸が結石を生じやすくなるので、尿アルカリ化薬も必要なことがあります。

高血糖による一過性の視力低下のメカニズム

 糖尿病の3大合併症の中に網膜出血があります。これは初期の段階ならば血糖を下げることによって元に戻せますが、初期の糖尿病網膜症では視力は低下しません。自覚症状が無いために要注意という言い方もできます。
 糖尿病性網膜症とは別のメカニズムで、高血糖で一過性に視力低下が起きることがあります。網膜は、カメラで言えばフィルムに当たる部分ですが、レンズに相当するのは角膜と水晶体です。角膜は黒目の部分で、最も強力なレンズですが、角膜の内側には筋肉で厚さが調節できる水晶体がはまっています。高血糖状態では、この水晶体の中にもブドウ糖が入り込み、浸透圧で水分を吸収しぱんぱんに膨張してしまいます。この状態では筋肉が水晶体の厚さを調節できないため、調節障害のために目がかすむという症状がでます。この状態は、高血糖を是正すると徐々に元に戻ります。
 ちなみに水晶体が濁って透過性が低下し見えにくくなるのは白内障です。糖尿病のコントロールが悪いと、白内障も進行しやすくなります。白内障は、起きてしまってからは血糖を低下させても元に戻らないので、手術(人工レンズと置換する)が必要になってしまいます。ただし、糖尿病性の白内障は頻度的には多くありません。

運動療法は歩行で十分か

 アメリカで閉経後の女性約7万人を約3年間追跡したところ、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患に対する予防効果は、歩行でも激しい運動でも同程度だったとする報告があります。やや早足程度でのウォーキングを毎日20分間、あるいはそれに相当する運動量を、日常の生活動作に加えて毎日実行すると、糖尿病患者では心筋梗塞のリスクが30%減るという報告もあります。勿論激しい運動でも動脈硬化を予防する効果はあるのですが、歩行でも十分な効果が得られるようです。

論文;Manson JE, et al. Walking Compared with Vigorous Exercise for the Prevention of Cardiovascular Events in Women. N Engl J Med 2002; 347

胆石

 胆石は、腹痛の原因疾患として代表的なものの一つです。右季肋部(一番下の肋骨のあたり)の痛み、特に高脂肪食を摂取した後の夜間に痛みやすいのが特徴的です。痛みが右肩や右上背部に広がることもあります(放散痛と言います)。胆のう炎が悪化したり、胆石が胆嚢から総胆管という場所にこぼれ落ちてそこに細菌感染が生じると、場合によっては命に関わることもあります。
 胆石の有病率人口の5~10%と言われています。80歳台では20%と言う報告もあります(剖検例)。過半数は無症状。この胆石症も、コレステロールの摂取過剰が原因になりうるので、生活習慣病と言って良い面もあります。

 胆石の種類はおおまかに2種類に分かれます。コレステロール胆石(約7割)と色素胆石(約3割)。それ以外のものはまれです。コレステロールの過剰摂取によって生じうるのはコレステロール胆石です。コレステロールは脂溶性(あぶらには溶けるが水には溶けない)のため、水にもあぶらにも溶ける胆汁酸やレシチンと複合体を形成して胆汁中に溶けています。コレステロールが胆汁酸に比べて過剰に存在すると、析出して結晶化し、胆石となるわけです。
 治療法ですが、昔は、熊の胆(くまのい)を胆石の治療薬として内服したとか。胆汁酸を内服してコレステロール胆石を溶かそうという治療法です。この治療法は今でも行われますが、熊から取った胆汁酸では無く合成したものを使っています。色素胆石には効かない、またコレステロール胆石でもカルシウムの沈着が強い(石灰化が強い)ものには効き難いのが注意点です。他にESWL(衝撃波で胆石を破砕して自然排出しやすくする)、手術で胆嚢ごと摘出する(手術歴が無ければ腹腔鏡で可能)があります。腹痛発作を繰り返す場合には治療の適応。
 無症状でも、胆嚢を摘出した方が良いケースもあります。その一つは、胆石が胆嚢内に充満している場合。摘出した方が良い理由の第一は、どうせ機能していないから摘出しても機能的には変わらないこと。第二は、胆嚢がんが発生した時に、胆石が充満していると発見が遅れる原因になるため。
 胆嚢がんは、日本人のがん死の原因の6位、約5%を占めています(ちなみに、1位 肺がん 2位 胃がん 3位 大腸がん 4位 肝がん 5位 膵がん)。胆嚢がんの40-70%に胆石があるという報告がある一方で、胆石を長期追跡しても胆嚢がんの発生率は1%未満であることから、胆石と胆嚢がんの関係は今だに議論の余地があるようです。

糖尿病と高脂血症の関係

 高脂血症とは血液中の脂質濃度が高い状態を言います。病院で高脂血症の検査をするときには、まず総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを測定するのが一般的な検査です。
 一般人口で最も多いタイプの高脂血症は、総コレステロールのみが高く中性脂肪はおおむね正常なパターンのものです(WHO分類でⅡa型と言います)。糖尿病患者でも、一番多いのはⅡa型ですが、一般人口と比べて高中性脂肪血症を伴うパターンの高脂血症も多いのが糖尿病の場合の特徴です。
 中性脂肪を分解する酵素はLPLと言いますが、LPLが産生されるのにはインスリンの働きが不可欠です。従って、1型糖尿病(膵臓のインスリンを分泌する細胞が自己免疫により破壊されてしまうまれなタイプの糖尿病)の発症時には血中の中性脂肪の濃度が1000mg/dl以上に跳ね上がっているのが普通です(diabetic lipemiaという)。2型糖尿病(ほとんどの糖尿病はこのタイプ)でも、血糖コントロール悪化時には中性脂肪の値も数百~千mg/dl以上に悪化する人が時々いらっしゃいます。そういったタイプの高中性脂肪血症は、糖尿病の治療をすると自然に改善していくのが特徴です。

追記

 私たちの血中を流れている中性脂肪やコレステロールは、そのままの形で血中に存在しているのではなく、中性脂肪とコレステロールとアポ蛋白が複合したリポ蛋白という形で存在しています。リポ蛋白の分類に興味のある方は、当ブログの2/4付記事のコメント欄をご参照下さい。

メタボリックシンドローム

 メタボリックシンドロームという概念が注目されています。血圧高め、血液中の中性脂肪の値が高い、血液中のHDLコレステロール(善玉コレステロール)の値が低い、肥満、血糖が高めの5項目のうち、3項目以上に当てはまるとメタボリックシンドロームと言います。これらの異常は、一つ一つが軽度の異常でも、集積すると動脈硬化の大きなリスクになります。軽度のリスクが集積した状態をメタボリックシンドロームと名づけた、といった所です。
 メタボリックシンドロームの根本的な原因は内臓脂肪の蓄積であるという説を提唱している人がいます。大阪大学医学部の前教授の松沢祐次先生です。他に、インスリンの効き目が悪くなった状態がメタボリックシンドロームの根本的な原因だと考える人もいます。あるいは、軽度のリスクが集積した状態の根本的な原因など無くても良い、メタボリックシンドロームなど大げさだ、たまたまリスクが集積した状態に過ぎないだろう、と考える人もいます。
 今年の1月に、松沢前教授の説を裏付ける可能性のある論文がScienceという科学雑誌に発表されました。内臓脂肪から分泌されるホルモンが存在する、という報告です。Visfatinと名づけられました。脂肪細胞の発達(脂肪の脂肪細胞内への取り込み)を促す働きがあるようです。Visfatinの受容体はインスリン受容体と同一だが、インスリンとは受容体の結合部位が異なる、ということも報告されていました。
 肥満の科学は日進月歩です。Visfatinはどれくらい重要なホルモンなのか。その機能の更なる解析が待たれます。

追記

 細かいことを言えば、メタボリックシンドロームの定義は2通り提唱されています(WHO、ATPⅢ)。