特発性肺線維症の新薬となるか
チロシンキナーゼ阻害薬(BIBF1120)の第二相臨床試験で、Forced vital capacityの低下を用量依存性に食い止めるという結果が出た。Nを増やした第三相臨床試験でも良い結果が出るかどうか。
Efficacy of a thyrosine kinase inhibitor in idiopathic pulmonary fibrosis.
NEJM 365:1079-1087, 2011
新型のCGMが認可
Medtronicの新型のCGM (iPro Professional CGM)が認可されたようだ。
ぐっと小型化し、腹壁に接着するような形の機器のようだ。重さは約5g。
補正用の自己測定した血糖値の入力は、測定5分以内ではなく、あとで入力する。
防水になっており、装着したままシャワー・入浴可と。
旧型と同様、リアルタイムで測定結果を見ることはできない。データは有線でコンピュータに取り込む。
定価80万、実売はかなり廉価。発売は来年3月ぐらいとのこと。
生活保護の医療扶助の自己負担導入について
生活保護の医療扶助の自己負担導入を政府が検討するというニュースがあった。
妥当かもしれない。
というのは、最新の治療というのは保険適応になっていてもそれなりに高い。なので、費用面で最新治療導入に二の足を踏むケースも当然ありうる。それが、生活保護になると全額扶助されるので、かえって導入しやすいなどの矛盾がある。
例えば、ジェネリック医薬品、治療上重要なホルモン製剤(インスリン、甲状腺ホルモンなど;インスリンはジェネリックを見たことが無い)に関しては全額扶助というのならば、分かりやすいかもしれない。もちろん制度設計は難しいだろう、例えば高額な抗がん薬や生物学的製剤は・・・。静注用抗生剤は・・・。厳密に考えるならば、日本の財政状況と、治療によって得られるQALY(Quality Adjusted Life Years)に基づく費用対効果などの概念も取り入れて検討しなければならないだろう。
例えば、先進国で健康寿命を1年延ばすのに許容される国費は400~500万円程度が上限と考えられている。そういった上限額も引き下げられる方向に行く可能性がある。例えば、透析も自己負担が生じる可能性があるのか・・・。世界の透析患者の約4割が米国と日本で占められているという状況も変わっていくのか・・・。
税金の使い道を考え、なるべくあるべき姿を目指すというのは必要だろう。・・・それにしても、日本は余裕がなくなってきたんだなあ。
12/11追記 生活保護費の半分が医療費だという。大病を患い療養している間に職を失う(クビになる)人の割合が多いのだろうか。
『糖尿病に克つ新薬最前線』
『糖尿病に克つ新薬最前線』
鈴木吉彦著
朝日新書(朝日新聞出版)
たまたま、海外での研究会で上記の本の著者の先生とお話する機会があった。
治療を受ける側の視点に立った先生のお話が合理的で明快だったため、上記の本を購入して読んでみた。
感銘を受けた。
新薬最前線と題にあるが、糖尿病に関する一通りのことが書いてある。
無駄な文章が見当たらない。
お薦めの一冊。
CLLの免疫療法
勤務先の抄読会メモ:
ノーベル賞を受賞後死亡していることが判明し話題となったラルフ・スタインマンの発見した樹状細胞や、あるいはTリンパ球を用いて、がんの免疫療法が取り組まれてきた。街中のクリニックでも自費診療で研究的治療として行われているが、免疫細胞を投与することによるがん治療の成果は今までは特筆すべきものがなかった。
しかし、今年8月に1例報告だが画期的な成果が発表された。
慢性リンパ球性白血病(CLL)患者に、CD19を認識して破壊するTリンパ球を投与するという治療法。
CD19はCLL細胞だけでなく正常Bリンパ球にも発現している。
患者からTリンパ球を採取し、レンチウイルスベクターを用いてCD19を認識する受容体を導入する。受容体の細胞内ドメインには4-1BB signaling domeinとTCR zeta signaling domeinがくっつけられている。これら2つのドメインはTリンパ球が増殖するための共刺激のsignal。この遺伝子改変Tリンパ球1.46×10^5/kgを患者に投与。
患者は従来の治療に反応しなくなった末期患者。
投与初期には何の反応も見られなかったが、day14に発熱・嘔気・食欲不振が出現、day22に腫瘍崩壊症候群が出現(UA 10.6mg/dl、P 4.7mg/dl、LHD 1130 U/L、sCre 2.60mg/dl)、day23には骨髄から腫瘍細胞が消失(FISH negative)、day31にはCT上リンパ節腫張が消失、day 300には完全寛解・ただし正常B細胞も欠失し低γグロブリン血症で定期的なIVIGが必要な状態となった。
血液内科専門医のコメント;
成功要因は3点考えられる。
①CLLを対象とし、ターゲット遺伝子をCD19としたこと。
CLLからは4-1BB, TCR zeta以外のT細胞増殖因子が出ており、投与した遺伝子改変Tリンパ球の増殖を助けたはずだ。
②遺伝子改変Tリンパ球が正常Bリンパ球も抑制するため、マウス遺伝子から作ったCD19応答受容体への免疫反応が抑制された。
③造血幹細胞からはBリンパ球が新たに産生されつづけるため、導入Tリンパ球への増殖刺激は腫瘍減少後も継続した。
課題は、腫瘍崩壊症候群を抑制するために、導入Tリンパ球の増殖速度を制御すること。
ブログ筆者の質問;
導入Tリンパ球に、例えば特定の物質を投与すると死滅するような仕掛けを施しておき、CLL治癒後に導入Tリンパ球を除去すれば、正常Bリンパ球は立ちあがってくるのか?
↓
答え;YES
文献;
Chimeric Antigen Receptor-Modified T Cells in Chronic Lymphoid Leukemia.
David L Porter et al.
NEJM 365:725-733, 2011
インスリンを用いた糖毒性の解除
糖尿病の発症早期にインスリンを用いて糖毒性を解除することの有用性が、NHKためしてガッテンで放送された。血糖コントロール不良状態を年余にわたって続け膵β細胞が疲弊しきってからではなく、早期に一時的にインスリン治療を行った方が膵β細胞機能が回復するため経過が良くなるということ。
ただ、糖尿病が治る可能性があるとまで言ってしまうと、過大な期待を持たれてしまいそうだ。インスリンを一時的に使用し糖毒性を解除すれば、再びインスリンなしで良好なコントロールを維持できるようになるのは事実だが、全く節制しなくても良くなるわけではない。
たばこ増税賛成
官僚の責任
『官僚の責任』
古賀茂明 著
PHP新書
古賀茂明さんは通産省の官僚。
天下りをはじめとする官僚の利権システム(国のために働かない人がお金をもらえるシステム)を否定する改革派官僚だ。
本書を読むと、中央官庁のあまりの腐敗ぶりに愕然とする。
通産省と東電の癒着のすさまじさには圧倒される。
山崎豊子の「沈まぬ太陽」や、その映画を思い出す。
腐敗の広がりが深刻だ。
今、国家は大きな岐路に立っているようだ。
総理が交代しようとしているが、民主党にどこまで改革を期待できるか。
一つのリトマス試験紙が、古賀茂明氏の処遇だと言えよう。
根本的な大改革を実現しなければ、日本の将来は暗い。
9/16追記
今日の読売新聞のニュースで古賀さん退職が報じられていた。
枝野さんは改革の意思を明確にしており、期待していただけに残念。
古賀さんは、これから日本のために活躍して頂ける方であるのは衆目の一致するところだろう。戦闘力を自ら放棄するとは、与党の度量不足だ。
9/26追記
今日の読売新聞のニュースを見て感動した。
古賀さんは特定の政党に所属して選挙に出馬したりせず、党派を超えて改革派議員を政策面で支援したいという。
日本のために仕事をするという、まさに官僚の鏡だ。良識ある議員を結ぶ環としてもがんばってほしい。
通商産業政策が専門なのだろうが、それ以上に、中央省庁の現場を知りかつ官僚組織再編のアイデアを持つ重要人物だ。古賀さんはこれまでと同様、ひたすら国からの要請を待っていらっしゃるのだろう。官僚にはこういう方もいる。
福島第一原発の放出している放射能量
7月27日に衆院厚労委員会で、児玉龍彦教授(東大先端研教授、東大アイソトープ総合センター長)が行った意見陳述が、インターネットを介して広まっているようだ。動画がyou tubeで紹介され、書き起こし文までwiki経由で見られる。雑誌AERAでも紹介されていた。児玉先生は日本医学界を代表する科学者だが、東大消化器グループ(旧第三内科)に所属する臨床医でもある。
広島や長崎は原爆が落ちてから50年は草木も生えないだろうと言われていたが、そうでもなかっただろう、福島の原発も大丈夫だという楽観的な意見が無いではなかった。
しかし、児玉教授の試算では、今回原発から放出された放射性物質は、ウラン換算で広島型原爆の20個分であり、しかも原爆から放出された放射性物質は1年で1000分の1になるが原発からのものは10分の1にしかならないという。
風評被害を避けるのは大事なことだが、現状がどれくらいの状況になっているのかを正確に知り、対策を立てて実行する必要がある。現在の政府の対応は全く不十分なようだ。国民の被曝は確実に進行しており、しかもその程度と危険度が分からないままだ。児玉教授は具体的な提案をしている。政府/国会議員が迅速に科学者の意見を理解し対応することを望む。政治ごっこをしている場合ではない。
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報道日 場所 物 核種 量
5/12 茨城県(行方市) パセリ: 放射性セシウム 1110Bq/kg
5/13 神奈川(足柄) 生茶: 〃 530~780Bq/kg
7/25 福島(広野町) 小麦: 〃 630Bq/kg
7/25 福島(田村市) ナタネ: 〃 720Bq/kg
8/19 宮城 イノシシ肉: 〃 2200Bq/kg
8/20 栃木 腐葉土: 〃 2800Bq/kg →全国(沖縄まで)に出荷
8/26 千葉(白井) 玄米: 〃 47Bq/kg
9/3 埼玉 茶葉: 〃 1500Bq/kg
9/3 千葉 茶葉: 〃 2700Bq/kg
9/3 福島(棚倉) チチタケ: 〃 28000Bq/kg
9/6 福島(南相馬) クリ: 〃 2040Bq/kg
9/7 栃木(日光) 野生シカ: 〃 2037Bq/kg
10/12 横浜市港北区 マンション屋上の溝の堆積物 〃 105600Bq/kg
9月7日追記
広島型原爆20個分(ウラン換算)の放射性物質の除染方法・コストと、分離した放射性物質の廃棄場所の確保を検討・決定する必要がある。日本は何をどうしていくか、世界から注目され評価されている。ドイツ大使館(東京都港区)に着任拒否する人が多く機能不全になっているというニュースも、外国が日本の安全管理を信用していない証左だ。日本の報道が3.11後メルトダウンを否定する大本営発表を長らく垂れ流し続けたのは、海外メディアの笑い物になっている。国民はごまかせても、不適切な対応を続ければ日本の評価を下げ、結局は国益を決定的に損なう。
10月31日追記
朝日新聞の報道によると、ノルウェーなどの欧米研究チームは福島原発が放出した放射性セシウムを3万5800兆ベクレル、その大半は海に落ちたが、19%の6800兆ベクレルが日本列島に降下したと推計している。降下した面積は国土の約3%、11338km2。均等割りすると5997億ベクレル/km2=599700Bq/m2。表面10cmに集積し、土の重さを2g/cm3と仮定すると、3000Bq/kg。汚染土の総量は2.3兆kg、体積で11億5000万m3となる。もちろん実際には均等に降下していない。除染の費用対効果を検討して優先して除染する範囲を決め、手をつけられないぐらい汚染度が強いエリアに除染した土壌を集積するしかないだろう。汚染度が比較的低くても、上流の森林からの放射性セシウムが継続的に流入し続けることが予想される地域の農作物作付け制限も必要だろう。ごまかさず真実を公表し、さっさと決めてやるべきだ。そのためには事態の正確な理解と、強い信念と政治的指導力が必要だ。人命第一として迅速に進めなければ、政治家というより人として最低だ。
11月25日追記
阿武隈川から海に流れ出る放射性セシウムの量が1日あたり約500億ベクレルにのぼることが判明したという。阿武隈川流域の農作物作付け制限をただちに検討すべきだ。調査は文科省、決断は農水省、だから時間がかかるなどと言わないでほしい。
11月28日追記
阿武隈川流域は山地が79%、農地が18%で996.6km2。平成7年の時点で流域の第一次産業就業者数は73800人、出荷額は31928億円、これは福島県内の57%、宮城県内の14%のようだ。これだけ見ても大問題だ、その後農水省はちゃんと動いているのだろうか。
BPPV
良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo)
●めまい全体の半分以上を占める。50歳以上の女性に多い。
●卵形嚢斑に存在する耳石が半規菅に迷入したり(半規菅結石症;後半規菅、水平半規菅が多い)、半規菅膨大部の感覚器(クプラ)に付着したりする(クプラ結石症)。
●予後は良好で数週間で自然軽快するが、再発することも多い。
後半規菅結石症
●見上げた時にめまいがでる。
座位から頚部を患側に45°回旋させて(後半規菅が体幹の矢状断に平行になる)から患側を下にした懸垂頭位(臥位でも可)への変換(Dix-Hallpike test)で、患側に向かう回旋性眼振、座位に戻すと逆向きの回旋性眼振。
●治療 Epley手技
(浮遊する耳石の移動を目的とした理学療法;浮遊耳石再配置法 canal repositoning procedure)
方法はGoogle検索で動画を見られる。
水平半規菅結石症
●寝返りや前かがみでめまいが出る。
臥位で頚部を左または右に回旋させると、患側を下にしたときに著明な下向き一方向性眼振、逆向きに回旋させると、逆方向への下向き一方向性眼振(方向交代制下向き眼振)。
水平半規菅型クプラ結石症では眼振の向きが上向きになる(方向交代制上向き眼振)。
●治療 Lempert手技