生活習慣病の予防 -4ページ目

シルバー民主主義

とある予防医学賞の授賞式で、小児科の先生が受賞者となり、それに対して祝辞を述べられた小児科学会会長のことばが大変印象的だった。


「小児科分野の研究者への授賞ありがとうございました。(中略) ところで皆さん、20歳未満の若年者への政府支出を1とすると、65歳以上への支出がどれくらいか御存知ですか?18ですよ。難破船の救助時の国際ルールを御存知ですか?まず小児、次に女性・けが人、壮年、最後が老年者です。これ以上は言いませんが・・・。」


想起されるのが、最近話題となっている画期的な抗がん剤。新規作用機序で、いろいろな癌腫の長期生存を達成する可能性がある薬剤だが、肺がんに使うと体重60kgの人で年間約2100万円!かかる。高額医療費制度を使うとわりと敷居が低い。現在、海外で開発された経口のC型肝炎治療薬が高額すぎると話題になっているが、さらにそんなものが登場。


このような高額な抗がん剤をがんがん使うと、この比率がさらに開大していきそうだ・・・。この薬価、厚生労働省は、何を考えているのだろうか・・・。海外にどんどん輸出し、国内での薬価は早く引き下げてほしい。

『ケトン体が人類を救う』読書感想

『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか』
宗田 哲男著
光文社新書

著者は、絨毛-胎盤に高濃度のケトンが存在することを見出し、それを根拠に、胎児はケトン体を主要な栄養源にしているという説を提唱している。

したがって、成人もケトン体を主要な栄養源にして生きることができるはず、と論理展開している。

また、脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体も栄養源にできる、と考えている。

大変興味深く、また考えさせられる内容だった。糖尿病の日常診療に、もっと積極的に糖質制限を取り入れるべきかもしれない。

ただ、率直に言えば論理展開の粗さも目に付いた。特にコレステロールについてがいまいち。著者自身も評価しているRCTの結果(数多くある)をどのように考えているのだろうか。この項目は記載しない方が良かったのではないか。

糖質制限に関する記述について、疑問が3点ある。

1番目の疑問 低血糖について

低血糖は死に至る危険がある状態だ。その理由は、低血糖だと脳がブドウ糖(栄養)不足のため昏睡に陥ること。また、低血糖状態はしばしば危険な不整脈を誘発することだ。
著者の考えが正しいならば、低血糖状態でも高ケトン血症であれば、昏睡にもならないし不整脈も誘発されないのだろうか?

2番目の疑問 糖尿病性ケトアシドーシスについて

著者は、糖質制限でたんぱく・脂肪で十分栄養をとっている状態で、正常血糖であればケトーシスであっても問題ない、と言っている。それは理解可能。では、正常血糖であってもケトアシドーシスになるレベルのケトン体濃度は、どの程度なのか、ということが疑問。血液pHの低値が生体にとって危険なのは疑いの余地がないからだ。通常DKAの時の血中総ケトン体は1万越えとなることが多いが、著者は5000を超えても問題ないケースを記載している。では、どの程度を超えると危険なのか?

3番目の疑問 

日本人の現状は高炭水化物(炭水化物50-60%)、米国人の現状は高脂肪食(脂肪50%超)、南米の畜産国家では高たんぱく食の国もある。世界で一番長寿な国は日本。米国は心筋梗塞による死亡率が高く、長寿国家ではない。糖質制限のクオリティーを決めるのは、糖質の代わりに何を食べるか、ではないだろうか。それが本当に肉と卵とチーズでよいのだろうか。コレステロールの血中濃度は、食事より体質の影響が大きく関わり、だからこそスタチンは良く効く。MEC食は(Meat, Egg, Cheese)、やっても良い人と、やってはいけない人がいるのではないか。

まとめ

面白い本だが、危険な面もある。一番感銘を受けたのは、胎児の栄養面の考察。さすが産婦人科医。二番目におもしろかったのは、学会で「襲撃された」というくだり。危険な面は、著者のコレステロールに関する勉強不足と、1型糖尿病に対する配慮が無い記述。いずれも、経験が乏しいこと、知らない(勉強不足な)ことを軽率に書いてはだめでしょう、医者なんだから。考察の緻密さと慎重さという意味で、同じ炭水化物制限推進派でも山田悟先生とはまったく違う。山田悟先生の本ならば自分の患者にも安心して勧められるが、この本は読んでも良い人といけない人がいると思う。本書は重篤な副作用をもたらす可能性があり、一言でまとめるならば「劇薬指定」。

今季から新しいインフルエンザワクチン

昨季までは、インフルエンザワクチンは3価だった。3種類のタイプに対応していた。A型のH1N1型、H3N2型と、B型は山形系統またはビクトリア系統のどちらか。流行タイプを予測して選んでいた。

しかし、B型が両方流行してしまうという事態を受け、今季からは4価となった。B型も両者が入っている。

その分接種費用が値上がりしているようだ。価格を据え置いているクリニックもあるが。

大村智先生

『大村智ー2億人を病魔から守った化学者』

馬場錬成著

中央公論新社


ノーベル医学賞を受賞されたので、どのようなお方なのかなと思い読んでみました。

凄い。

確かにノーベル賞に値する業績を挙げられているが、加えて経営者としても活躍し、特許収入で得た財を世のため人のために生かし切っているところが、常人ではないという印象を与えます。


ノーベル賞受賞理由であるイベルメクチン(およびその誘導体)が、たった1回の内服で、アフリカの風土病だけでなく、皮膚難病として知られている疥癬の特効薬でもあり、2006年に保険収載されたということも初めて認識しました。


大志を抱いている一流の研究者は、研究面で信義にもとる行為はしないが、一流大学(プリンストン大学など)の教授であってもそのようなふるまいに及ぶことがある、ということにも触れられています。まあ、お祝いの際にはどうでもよいことなのですが、そのような恥ずべき行為は白日のもとに晒される日が来ることもある。超一流の研究者は、権威主義的ではなくリベラルだ、ということも良く伝わってきました。

下肢静脈瘤の非手術治療法

かつては、下肢静脈瘤の治療はストリッピング手術といって、外科的に静脈を切除する方法しかなかったが、現在では血管内レーザー治療/高周波治療という非手術療法が可能となり、しかも保険適応になっている。保険適応になっている事実を今日初めて認識した。日帰り治療が可能だとのこと。患者さんに教えてもらった・・・。下腿の静脈瘤治療のため、大腿の機能しなくなっていた静脈を日帰りレーザー治療にて閉塞させたところ、効果は即日確認でき、自己負担は6万円程度だったと。

糖尿病療養指導士

糖尿病療養指導士(CDEJ)というコメディカルの資格がある。

総合病院がどれくらい糖尿病の診療に組織的に力を入れているかを簡便に見る方法の一つが、このコメディカルの有資格者数をチェックすることだ。

日本糖尿病療養指導士認定機構のホームページ(http://www.cdej.gr.jp/ )で見ることができる。

オレキシン講演メモ

昨日筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授の船戸弘正教授のご講演を聞く機会がありました。


一番興味深かったのは、食欲を亢進させる神経ペプチドとして同定されたorexinをマウスで過剰発現させると、むしろ高脂肪食負荷時に体重増加抑制効果が見られるということ。


OrexinAの受容体OX1RとOrexinBの受容体OX2Rがあり、ノックアウトマウスを使った実験によれば体重増加抑制効果はOX2Rが担っている。OX2R agonistは食事誘導性肥満を抑制すると考えられるが、身体活動時間は不変であり、基礎代謝が上がっているためと推測されるとのこと(褐色脂肪細胞でUCP1の発現が上がっているなどから)。一方OX2R agonistによる減量効果は期待できないかもと。


生命活動の複雑さに、昨夜もまた圧倒されました。

ついに採血不要のミニサイズ血糖測定器が登場

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO87860550Z00C15A6MM0001/

機器のサイズは縦横10cm、高さ7cm、赤外線を使用し、測定時間は3秒、精度は従来のSMBG機器と同程度で、価格は10万円だがランニングコストなしとの記事内容。これが事実であれば、国内で700億円、世界で1兆円といわれる血糖測定関連事業に当然多大な影響があるし、実臨床や保険診療にもインパクトが極めて大きい。

新型持続血糖測定器

アボットが新型血糖測定器を開発し、欧州で発売しているらしい。個人輸入している人も数人いるようだ。上腕に2週間張りっぱなしにする持続血糖測定器、500円玉大。MedtronicのCGMSと違い、補正も不要。血糖表示機器との情報のやり取りに電波ではなく、スイカのような技術を使っているので、保険さえクリアできれば日本にも入ってきそうだ。

http://diatribe.org/issues/58/new-now-next/6

子どもの貧困の原因と対策

2011年のデータでは、貧困(相対的貧困)世帯のこどもが6人に1人(約16%、実数で232万人)だという。


相対的貧困世帯というのは、「社会の標準的な所得の半分以下の所得しかない世帯」のことで、額でいうと、「2人世帯であれば177万円、3人世帯で217万円、4人世帯で250万円を下回る世帯」だという。


最初に聞いたときは「いったいどこの国の話だ」と思ったが、日本の話だ。

最大の要因はシングルマザー家庭の増加だという。


そう考えると、性の乱れが社会問題化しているという言い方もできるのではないだろうか。

婚前交渉ということば自体が時代遅れと言われるかもしれないが、もっと男女の性的な関係を大事に考え、軽々に行わないようにし、結婚をもっと神聖なものと考えて尊重することが、結果としてシングルマザーを減らすのではないだろうか。


法律的な観点からは、生物学的な父親に経済的な責任を取らせる仕組みを作るとか、医学的な観点からは、避妊教育を強化しそれを性感染症を減らすことにもつなげるなどが必要か。


このような考え方は保守的と言われてしまうのだろうか。でも、保守的にふるまうことが身を守るのではないか、特に女性は。若さは一過性であり、性の歓びも一過性だが、夫婦関係や家族関係は一生継続する強固な関係だ。性欲を否定するわけではないが、若者は簡単に一線を超えず、愛とはなんだろうかと、もっと真剣に悩み考えるべきではないか。


また、離婚してシングルマザー家庭になる場合、かなりの割合で離婚原因が夫のDVだという。DVをする男を減らすことも、根本的な対策として必要だ。男女の違いをきちんと認識することと、男女平等というのは違うことだ。日本ではあまりレディーファーストという概念が日常生活で意識されていないと思うが、これは結構悪いことなのかもしれない。義務教育から、男子が女子を気遣うことを推奨し、「非力な女性に暴力をふるうのは卑怯であり、悪だ」という感性を養うように、日本男子の教育の見直しが必要ではないか。


また、現存するDV家庭の夫を改善し離婚を防ぐことはできないだろうか。家庭がひとつの密室になっていることが、不適切な行為が行われる原因だろう。家庭の孤立を防ぎ、地域社会の活動で人の出入りを生じさせることが、DVを減らすことになるのではないか。なにかできるのではないか。個人的にできる努力としては、DVに悩む女性が社交を減らすのではなく、むしろ頑張って近所づきあいを増やしお客さんにきてもらう、あるいは夫に友人などを連れてこさせる、などだろうか。少々交際費が増えても、DVに悩み追い詰められ離婚して困窮するよりはまし、かな。そんなにうまくいかないか?DV家庭が改善し幸せな家庭になれば、こどもにとってこれに勝るものはない。


いずれにせよ、こどもの6人に一人が貧困だなんて、気がめいる惨状だ。なんということだろうか。国防を固めるより先に内部崩壊せぬよう、注意が必要ではないか。