生活習慣病の予防 -2ページ目

コロナ流行の振り返り

東京都におけるコロナ第5波の感染者数は冬の第3波の3倍に達しましたが、死亡数は第3波よりやや少なめに留まりました。

高齢者のワクチン接種が進んでいたおかげです。

中年層へのワクチンが進む前に、デルタ株が急拡大する中、大半の民意に反して五輪が強行開催されたことは残念でした・・・。

 

11月中に12歳以上の希望者へのワクチン接種が完了する見込みですから、来年の生活がどの程度日常を取り戻せるか、来る冬期の流行状況が試金石になりますね。大きな期待を持って見守りたい所です。

 

 

写真の説明はありません。

結核とコロナ

厚生労働省のホームページを見ると、結核は今でも年間10,000人以上が感染し、約2000人が命を落としているという。

しかし、医療関係者は別として、普通は結核の存在が意識されることは無い。

 

新型コロナウイルスは撲滅が難しく、ワクチンの定期接種は今後必要ではないか、ということが議論されるようになった。

米国ではワクチン摂取率が50%を超えたころから伸び悩んでいる。米国でコロナ感染が終息しなければ、日本にも場合によっては変異株が再輸入されると考えざるをえない。

 

変異株の脅威は減弱していくだろう。ワクチンを接種していれば変異株に対してもある程度の抵抗力があるため、今後はワクチン接種が進むほど、流行規模も重症化数も今までよりは小さくなることが予想される。来る冬期の流行状況が試金石となる。ワクチン否定派には試練の冬だ。

 

コロナを結核なみに意識しなくても良くなるのは、感染状況がどの程度になったらなのだろうか。

結核による死亡数は1日5-6人、結核の感染者数は1日30人程度。これが一つの目安になりうるだろうか。身も蓋もない話だが、ウィズ コロナってそういう事かな。

運動で血圧がどれくらい下がるか

高血圧の治療は塩分制限と運動療法、必要ならば薬物療法ですが、どれくらい運動すればどの程度血圧が下がるのでしょうか。

 

血圧コントロールに3~4剤が必要な高血圧患者53名が対象。平均年齢60歳、平均血圧140/84。

有酸素運動を1回40分、週3回実施するグループと対照グループに分け、12週間追跡調査。

運動強度は、最大酸素摂取量の50%の運動を20分、その後5分ずつ55%→60%→65%→70%と強め、計40分。

その結果、24時間血圧で収縮期7.1mmHg、拡張期5.1mmHg低下。日中で収縮期8.4mmHg、拡張期5.7mmHg低下。診察室で収縮期10.0mmHg低下。また、最大酸素摂取量は5.05ml/kg/min改善。

Susana Lopes MSc et al. Effect of Exercise Training on Ambulatory Blood PressureAmong Patients With Resistant HypertensionA Randomized Clinical Trial. JAMA Cardiology Published online August 4, 2021.

 

60歳代だと最大酸素摂取量は男性で32ml/kg/min、女性で26ml/kg/minが平均的なようなので、運動能力(最大酸素摂取量)が12週間で5.0ml/kg/min改善というのはかなりのものです。

 

しかし運動強度は日常生活だとどのように計測すれば良いのでしょうか。

簡便なのは心拍数を用いる方法です。

自分の最大心拍数を220-年齢と考え、その時に最大酸素摂取量に達しているとします。

運動強度50%は、安静時心拍数と最大心拍数のちょうど真ん中と考えます。

 

例えば、安静時心拍数が60/minの60歳であれば、最大心拍数は220-60=160/min、運動強度50%は心拍数で110/minの時となります。

以下同様に運動強度55%は心拍数115/min、60%は120/min、65%は125/min、70%は130/min。

別に10分ずつウォームアップとクールダウンの時間も必要です。

 

 

糖尿病性腎症の薬物療法 トリプルブロックの時代へ?

糖尿病性腎症は、尿中アルブミンが300mg/gCreを超え顕性蛋白尿期に入ると、血糖コントロールは大勢に影響なく、腎機能低下の進行抑制のためには降圧療法が重要で、降圧を超えた腎保護効果を有する唯一の薬物療法はRAS阻害薬という状況が長く続いていました。

 

1st Block; RAS阻害薬

 

アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACI)が糖尿病性腎症に有効だとする初めての報告は1993年のColloaborative Study (NEJM 329:1456-1462, 1993)、カプトプリル(ACI)の1型糖尿病の顕性腎症に対する有効性。

 

アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が糖尿病性腎症に有効だとする初めての報告は2001年のRENAAL Study(ロサルタン;NEJM 345:861-869, 2001)とIDNT Study(イルベサルタン;NEJM 345:851-860, 2001)。この2論文はNEJMの同じ冊子に掲載されました。

 

ACIには空咳の副作用がでることがありますが、ARBにはそれが無いのがメリットです。

 

2nd Block; SGLT2阻害薬

 

エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)の心血管への安全性を見るための試験(Empa-Reg Study)で、エンパグリフロジンが糖尿病患者の心血管病の二次予防に有効だとする結果も衝撃的でしたが、エンパグリフロジンがどうやら腎臓にも良さそうだということが判明し、その腎アウトカムに関する論文が研究のPrimary outcomeではないのにも関わらすNEJMにアクセプトされるという事件が2016年に発生(N Engl J Med. 375:323-34, 2016)。腎アウトカムをprimary outcomeに設定したカナグリフロジンによる追試でSGLT2阻害薬の糖尿病性顕性腎症に対する保護効果が2019年に確認されました(N Engl J Med. 380:2295-306, 2019)。

さらには非糖尿病の慢性腎臓病にもSGLT2阻害薬が有効であることが報告されました(ダパグリフロジン;N Engl J Med 2020;383:1436-46)。

いずれのSGLT2阻害薬も、eGFRの低下スピードが投薬開始直後はむしろプラセボより悪化しますが(initial dip)、その後低下スピードが緩やかになり投薬開始1年後ぐらいでプラセボと交差してきます。

 

3rd Block; MRB

 

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)のスピロノラクトン,エプレレノンもまた腎保護効果を発揮すると考えられます。ステロイド骨格を有するスピロノラクトンは抗男性ホルモン作用を発現してしまうことがあり女性化乳房などの副作用があるのが難点ですが、非ステロイド性MRBであるエプレレノンはその副作用がありません。しかしエプレレノンは高カリウム血症の危険性から糖尿病性腎症への使用が禁止されています。

 

一方で非ステロイド性MRBのFinerenoneはスピロノラクトンと比べて高カリウム血症の副作用が少ないとの報告がありますが(Eur Heart J 34:2453-2463, 2013)、Finerenoneがプラセボと比べて有意に高カリウム血症を起こすことなく、糖尿病性腎症に有効であるとする報告が2020年にありました(Fidelio-DKD Study; NEJM 383:2219-29, 2020)。eGFRの推移を見ると、SGLT2阻害薬と同様投薬開始後はむしろプラセボより悪化していますが悪化の傾きは緩くなり、投薬開始後2年でプラセボと交差してきます。腎保護効果がはっきりしてくるのにSGLT2阻害薬よりは時間を要する印象です。

 

いろいろな要因でSGLT2阻害やMRBを投薬できない人もいるでしょうが、投薬可能な場合の糖尿病性腎症に対するfull medicationは今後はトリプルブロック療法ということになるかもしれません。ただし、Finerenoneは現時点で日本には入ってきておらず、おなじnonsteroidal MRBで糖尿病性腎症への投薬が可能なエサキセレノンに同様の薬効が期待されます。しかしエサキセレノンは世界展開をしておらず、finerenoneのような大規模RCTによるエビデンス構築は期待できないのが残念な点です。

 

 

リンの適正摂取について

Ⅰ リン欠乏で死ぬことはあるか?

 

 戦国時代に籠城が終わった武士で、握り飯だけ食べた人は死んだが、肉や魚を一緒に食べた人は助かったという話があり、これは炭水化物摂取によりリンが細胞内に移動し低リン血症が悪化したためだという。

 ブドウ糖は解糖系により最終的にエネルギー通貨といわれるATP(アデノシントリリン酸)になるため、ブドウ糖が細胞内に取り込まれるときはリンも一緒に取り込まれる。低リン血症の人がブドウ糖だけ摂取すると、低リン血症が悪化するということ。

 現代で籠城後の武士並みに低リン血症になりうるのは、例えば重度のアノレキシアの患者などでしょうか。

 

Ⅱ リン過剰で寿命が短縮する? Klotho遺伝子

 

•1991年  黒尾誠先生が老化促進マウスをたまたま作成

  Klotho=“ギリシア神話で生命の糸を紡ぐ神”

•1997年  Nature “Klotho”遺伝子の同定

•2006年 Klotho蛋白=FGF23受容体

 

リン摂取→成熟骨細胞がFGF23を産生

  ↓腎で

①近位尿細管細胞のFGF23受容体に作用してリン再吸収抑制

②1α水酸化酵素発現抑制→活性化ビタミンD↓→血中iP↓

 

•マウスの普通の餌はリン含有量0.35%

  ↓

 リン制限食により寿命が延長した

 

•血中リン濃度と寿命は逆相関する(マウス)

 

•ヒトでも血中リン濃度が高いと全死亡率が高い

 2.5~4.0と正常範囲内で。(Toneli M Circulation)

 

リンの過剰摂取は石灰化や動脈硬化の促進につながる。

 

現代の食生活はリン取り過ぎ

 

•食品添加物・・・無機リンが多い

 増粘多糖類、PH調整剤などリンと書いていないが・・・

 加工肉(ハム、ソーセージ)、プロセスチーズなど要注意。

 

解説;プロセスチーズとは

 食品添加物を入れ、成形してあるチーズ。6Pチーズなど。実はプロセスチーズは日本以外ではあまり作られていない。

 ナチュラルチーズには食品添加物が入っていない。シュレッドチーズはナチュラルチーズ。ゴーダ(オランダ)、チェダー(イギリス)、モッツァレラ(イタリア)、ゴルゴンゾーラ(イタリア)、ロックフォール(フランス)、パルミジャーノ(イタリア)、ブリー(フランス)、エメンタール(スイス)、エダム(オランダ)、ミモレット(フランス)、ステッペン(ドイツ)、マリボー(デンマーク)などはもちろんナチュラルチーズ。(思わずチーズ愛が炸裂してしまいました)  

 

•食品のリン吸収率;

 植物:50%以下、肉:90%以上

 大豆などはリン含有量が高くてもリンの生体利用率が低い。

 

片頭痛の新薬(内服薬)

 1カ月当たり4-14日片頭痛発作がある患者910例を対象に、カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体拮抗薬atogepant経口投与の第3相臨床試験。主要評価項目は、12週間の1カ月当たりの平均片頭痛日数の変化量。

 有効解析対象は873例(atogepant 10mg群214例、30mg群223例、60mg群222例、プラセボ群214例)。12週間の1カ月当たりの平均片頭痛日数変化量は、atogepant 10mg群-3.7日、30mg群-3.9日、60mg群-4.2日、プラセボ群-2.5日。プラセボと比較したベースラインからの変化量の平均差は、atogepant 10mg群-1.2日、30mg群-1.4日、60mg群-1.7日(いずれもP<0.001)。主な有害事象は便秘(atogepantの3用量6.9-7.7%)と悪心(同4.4-6.1%)。

NEJM 385:695-706, 2021

 

開発しているのはアッヴィ(アボットの関連会社)。

週1回注射の持効型インスリン

ノボ ノルディスク ファーマ(デンマーク)が、週1回注射の持効型インスリン"insulin icodec"を開発中で、日本でも第3相臨床試験に入った。

第2相臨床試験で有望な結果が出ている。

Diabetes Care 44:1595-1603, 2021

 

1日1回注射のインスリン グラルギンと週1回注射のインスリン icodec との比較試験の概要

 

メトホルミン(単剤か、+SGLT2iかつ/またはDPP4i)を内服中で、平均値で年齢60歳、HbA1c 8.1%の肥満2型糖尿病を対象とし、空腹時血糖値の目標を80-130mg/dlに設定し、週1回インスリンの用量調整を16週間実施。3日連続で空腹時血糖値をSMBGで測定。

 

1回でも80mg/dl未満があれば、グラルギンは4単位/日減量、icodecは21単位/週減量(A群)または28単位/週減量(B群)。

1回も80mg/dl未満がなければ、3回の測定値の平均値を算出。

平均血糖が130mgdlを超えていれば、グラルギンは4単位/日増量、icodecは21単位/週(1日あたり3単位;A群)か28単位/週(1日あたり4単位;B群)増量。

 

結果;icodec 21単位/週ずつ増減したA群が、グラルギン4単位/日ずつ調整した群と最終的なインスリン使用量や血糖コントロール結果が同等で、低血糖も最も少なかった。

 

(C群;目標血糖80-108mg/dlで週28単位ずつ増減、は詳細省略。血糖値は一番下がったが低血糖も多かった。)

 

第3相はA群のアルゴリズムで実施する方針のようです。

片頭痛の新薬(月1回皮下注;エムガルティ)

2021年4月に発売された片頭痛の新薬。抗CGRP抗体。

月1回皮下注する。従来の予防薬で効果不十分な人が対象。

発作回数が半減、1割程度が発作が消失と。

3割負担で1本13000円強。初回は2本使用。

製造はイーライリリー、販売は同社と第一三共株式会社。

日本の新型コロナ流行は最大の難所を乗り越えた

感染症がもっとも流行しやすい冬期が終わりました。

バイデンさんに言われるまでもなく、It is not time to relux.

でも、春が来ました。最大の難所を乗り越えられたでしょうか。あとはワクチン!

 

 

新型コロナウイルスのワクチンはmRNAワクチンが最良

2020年9月に米国医学会雑誌(JAMA)に掲載されていたコロナワクチンの総説を紹介します。

 

①蛋白ワクチンに比べて遺伝子ワクチンの方が、液性免疫だけでなく細胞性免疫を賦活化することが期待できる。

②DNAワクチンよりRNAワクチンの方が早い効果が期待できる。

③安全性もDNAワクチンよりRNAワクチンの方が高い。RNAワクチン自体に感染性は無いし、細胞の核に入り込まないためヒト遺伝子に入り込む危険も低く、せいぜい数時間で分解されるため長期の副作用が起きにくい。

④技術的には複数の病原に対する免疫を惹起するmRNAワクチンが作れるので、将来は1ワクチンで25程度の病原体をカバーできるようになり、小児の頻回のワクチン接種負担を大幅に軽減できるかもしれない。

⑤時間さえあれば、冷蔵保存でも大丈夫な製剤に改良できる。

 

文献:JAMA. 2020;324(12):1125-1127